メイリオのサンプルの文章を打ち直したものです。誤字などがあるかもしれません。ただしchapter headingsなど))の部分は原文ママ。

イタリック体Italicsは、ローマン体小文字small-lettersとよく似ているが、字幅が細めで、右へわずかに傾斜splopedする。ペン・アングルは斜めslantedになり、軽やかな筆致で自由にのびのびと書かれる。セリフserifsはなだらかなフック型に起筆することが多い。例外的にはpqの字画の終筆部finishing strokeはあとで書き足すことが多い。上方向に伸びる字画のアセンダーascenderと下方向へのディセンダーdescender(b, d, f, h, k, l, g, j, p, q, y等)は眺めで、終筆部はカーヴすることが多く、フロリッシュflourishes(装飾線)を付け加えることもある。通常イタリック系の自体bodiesは細身であり、互いに間を詰め気味に並ぶので、見ためには流れるように軽やかでありながらも、一行あたりの収容文字数は多くなる。行間inter-line spaceはステムstems(縦の字画)の流さをたっぷりとれるように広めにされることが多いので、字間をアセンダー、ディセンダー、大文字capitalsの字画などで自由に飾ったり、ペン書きの装飾罫で埋めることもでき、その華やかさが単純で規則的な自体との鮮やかな対比効果を成す。

イタリックという用語は、手書きによる草書の正字体cursive formal writingを指すが、それに類似する傾斜した活字体も含まれる。活字書体のイタリックがはじめて使われたのは1500年のヴェネチアVeniceで、当時アルダス・マヌティウスAldus Manutiusが印刷したウェルギリウスVirgilの詩編であった。ここからこの書体は「ヴェネチアンVenetian」「アルダインAldine」などと呼ばれ(ドイツ、オランダでは「カーシヴcursive」と呼ばれ)またたく間に欧州各地で模倣された。英国の印刷家では 1524年にウィンキン・デ・ウォードWynkyn de Wordeが使っている。アルダスは数々の古典の本文全体entire textsをイタリック小文字体lower-caseで組版して印刷したが、大文字は通常の直立形ローマン体upright romanを小さい寸法(併用の小文字に対して)で使っていた。イタリック体の大文字はローマン体大文字の一種だが、併用する小文字よりは傾斜角が浅いことが多く、ときにはフロリッシュで飾られるので、いまでも17世紀以来の呼び名「スワッシュswash letters」でも通用する。

イタリックの用法は、アルダス以降の印刷では、本文text/main textの一部をほかと区別するために次のような用途「まえがきintroductions、序文prefaces、索引indexes、注記notes」などに用いられた。その後には「引用quotations、強調emphases、本文ではない語句(各章の見出しchapter headingsなど))にも用いられている。また文字の調子を変えたくない場合には、写本ではイタリックたい を使わずに朱書きRed Writingをもって代えることもできる。ローマン体小文字と同じく、イタリック体は普遍的な書体であるが、その形象は独特で優雅な魅力がある。正書体formal handsの中では最も速記に適していること、スリムで紙面節約ができること、比較的らくに規則的な文字を書けることなど、合理的な見地からもイタリック体を充分学ぶ意義はある。

メイリオの画像サンプルに使用されている文章は、原著 “Writing & Illuminating & Lettering”(Edward Johnston, 1906)、邦訳『書字法・装飾法・文字造形』(朗文堂刊、2005年出版)の一部を河野英一が編集したものです。